マインドサーカス  


わかってたんだ、と掠れた声が虚ろに落ちた。青い天蓋の青いカーテン、薄水色のシーツで覆われた
彼女のベッドは、金髪の少年が座り込んだ重みでいつもより深く大きく軋む。
部屋に響いたそのぎこちない音に、少年と自分の性差という纏う殻の違いをじわりと実感した。
「わかってたんだよ」
「ブライト様」
「多分、そうなんだろうとは思ってた。でもそうじゃないかもしれない、とも思ってた。……違うな、期待だ。
 そうでなければいいっていう浅はかな」
「ブライト様」
「あの子の心に僕はいない」
「ブライト様!」
彼の目がレインの姿を映す。この世に生れ落ちたばかりの赤子の目が何も映さないように、彼は果たして
目の前に跪いているのがふたごの姉姫だと気付いているのだろうか?

「……さっきからずっと喋りっぱなしだもの。何か飲み物を貰ってきます」

彼を部屋にひとり残しておくことの不安はあれど、それよりも時を動かさなければならない
思いに駆られてレインはドレスを翻す。この部屋の空気を、澱んだ時間を、鬱屈した想いを。
しかし扉の取っ手を掴むつもりだった手のひらの自由が少年に奪われて、その足も止まる。

「――あ」

揺れる赤いいろ。このひとの目は妹と同じ色をしているけれど、
その目が映す景色が残酷なほどに離れてしまったのは、ついさっきのこと。

たぶん、彼は謝罪しようとしたのだ。
レインの手を引き止めたことを、彼のこころの内をとつとつと語ってしまったことを、
今、レインに赤い髪のむすめを重ねたことを。

彼の唇が動くよりも速く、レインは少年の背を抱きしめた。


ねえ、どうしてあなたはこんな悲しいかおをこのひとにさせるの。
どうしてあなたはあんなひとがいいの。
どうしてどうしてどうして。


どれだけの想いを矢にして降らせてもいま姉がからだを抱きしめている少年には届かず、
少年のこころを知らない妹の恋心は遠く触れられない場所にある。
かつては並んでいたはずの姉妹のベッドが今は壁を隔てた異なる部屋で座しているように、
もはやふたりのむすめのこころがひとつであることは叶わないのだと、レインはゆっくりとベッドに沈む
自分のからだを哀れに思った。



みんな一方通行です。 



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