拍手に上げてたテキスト+ブログの短文ログです。タイトルクリックで本文ジャンプ。




「まだ恋は始まらない」(一期 エクレイ)
「花束、褒め言葉、彼氏と彼女」(二期 エクレイ)
「未来はぼくらの手の中!」(一期でも二期でもない未来、エクレイ)
「正しいかどうかは疑問が残る(が、彼には如何ともし難い)恋愛のススメ」(エクレイ)















「まだ恋は始まらない」

「……別に、謝りに来たわけじゃないのよ」
「なら、何しに来たんだ」
「だってあんな態度だったら、誤解されて当たり前じゃない。確かに私も、その、ちょっとだけは
 悪かったかもしれないけど……!だいたいブライト様に対する態度だってひどかったし、
 プロミネンスのことをいつも狙ってたし、肝心なことは何も云わないしで怪し過ぎるのがいけないんだから」
「結局のところ文句しか云わないな、お前は」
「誰のせいよ。……ああもう、こんなこと云いに来たんじゃないのに」
「だから、何の用で来たんだとさっきから」
「……屈んで」
「は?」
「届かないから屈んでって云ってるの!」

ぐい、と乱暴にスカーフを引かれた。咄嗟のことで身構えることもできなかった
彼の頬に、勢いをもってぶつけられたのは小さくてやわらかで、ささやかな。


背伸びを終えたレインの踵の音が軽やかに響き、スカーフを掴んでいた手もあっさりと解けた。


「……ファインと喧嘩して仲直りするときはいつもこうなの、お父様とお母様に謝るときもいつもこうなの!
 だから変な意味はないし、それ以上でも以下でもないのよ。えっとだから、その、それだけ……で」
「……………………………………はあ」
「わ、私もそんなつもりなくて、じゃなくて……とにかく、そうなの!そういうことだから!」



強盗に押し付けられた銃口から花束が飛び出したらきっとこんな気持ちになるのだろう。
逸る胸をどうにか落ち着けようと必死になっている自分の姿も、妙な熱をいつまでも訴える頬も、
逃げるように走り去った青い小さな背中から離れない視線も何もかも。


三代目拍手。まだまだ全然さっぱり無自覚だった頃のふたり。        





「花束、褒め言葉、彼氏と彼女」

「笑顔が素敵、なんですって」
「へえ」
「いつもほのぼのニュース楽しみにしてます、なんて云われちゃった」
「良かったな」
「おまけに花束までもらっちゃったの」
うふふ、と青い花にスリーパーホールドをかけながらくるくるまわる。
それがどこまでお世辞や社交辞令という礼儀に則ったお褒めの言葉だったのかは
シェイドには知る由もないが、とりあえず温室の中でぐねぐね揺れて上機嫌なのだろう
レインの姿は作業の邪魔以外の何物でもない。
「やっぱりレインさんには青い花が似合いますね、ですって。ピンクのチューリップもいいけど、
 そんなこと云われると悪い気はしないわよね。私も青い色は大好きだから」
今、シェイドが手を入れているハーブもまさに薄青色の花をうつむき加減にちらほらと
咲かせていたりするのがまた、あまりにも寓意的。

ああ悪かった、お前が青い色なのは別にお前が望んだ結果じゃないしお前が悪い訳じゃないさ。
湿度に弱い種にこの場所は良くないだろう、と判断してスコップを入れる。
「物好きな奴もいたもんだ」
「それって間接的に自分のことを卑下してるって、わかってる?」
彼の手の中のスコップは予想外の勢いをつけて垂直に土を抉った。
あと少しずれただけで、哀れな青い花は短い寿命を終えることとなっただろう。
いつの間にかシェイドの傍らにしゃがみこんでいた少女の、その笑顔の憎らしさといったら!

「それで?」
「……あぁ?」

「シェイドは、私に何色の花が似合うって云ってくれるの?」


死んでも云うか、畜生。




三代目拍手。出会ってから一年と少し、腐れ縁じみた両思い。        





「未来はぼくらの手の中!」

優しくないのよ、まず第一に。
自分の妹にはあんな蕩けるような顔で笑うくせに、自分のお母様にはあんな優しい顔で応えるくせに。
私の前じゃいっつも仏頂面。もう少し愛想が良くたって、罰は当たらないと思うわ。

それに、口も悪いわよね。年頃の乙女を掴まえて、やれ重いだのやれもう少し王女らしくできないのかだの。
莫迦かお前は、ってもうそれは何度も聞いたわよ。耳に蛸ができちゃうくらい。

ああ、あと態度も乱暴。王子様にあるまじき乱雑さだわ。女の子を抱えるんだから、
それ相応のやり方ってものがあるでしょう?荷物を抱えるみたいに担ぎ上げるって、何なのそれは。
おまけに「重いから暴れるな」?そんな態度されたら暴れたくなるに決まってるじゃないのよ。
大昔のことをいつまで根に持ってるんだとさんざん云われたけれど、
逆に腹立たしいから忘れたくっても忘れられないのよ、おあいにくさま。


甘い言葉もくれない、口を開けば意地悪ばっかり、素直じゃないし専横的だし。
ガラスの靴を捧げ持って跪いてくれたりなんか、絶対しない。
何から何まで、どこを探したって理想の王子様なんかじゃない、はずなんだけれど。


――――レイン。

耳元に落ちたおぼろげな声、次いで引き寄せられたからだ。
あまり高くない彼の体温に抱き込まれるようなかたちで、彼女のからだはすっぽりと
その腕の中に収まった。



……まあ、いいか。
シェイドが珍しく漏らした寝言が自分の名前だったということ、
それが彼女の聞き慣れた少年の声よりも微かに高く柔らかい穏やかな声だったこと、
それから、まだゆるやかな眠りの中にいるのだろうに腕の中の温もりを逃すまいとでも思っているのか、
ちっとも力を緩めようとはしない彼のことを考えて、少し笑って。


今度は少年の首筋に顔を埋めるようにして、もう一度まどろみの世界へ回れ右。
目が覚めたら、憎まれ口ばかりの彼の唇は真っ先にキスで塞いでしまおうと決めてしまっていたから。



三代目拍手。自分の思い通りにならない恋愛感情について匙を投げるのはシェイドの方が格段に早いですが、       
レインの場合は匙を投げるどころかそっくり全部飲み込んで、綺麗さっぱり自分の中で消化してしまいそうな気がします。       
(だからシェイドはそーいう面ではたぶん、一生勝てない)       





「正しいかどうかは疑問が残る(が、彼には如何ともし難い)恋愛のススメ」

唐突に人の部屋のドアを殴打したと思ったら、中に侵入を果たすなりひどく高い声で
わんわん泣き出すことができるのは女だけの特権だ。
少女の声は彼女の妹のそれよりは少し柔らかい低い位置を漂っていることが多かったが、
泣き声に関してはまだ歩くこともできない彼の妹とさほど変わらない、
彼がイメージする女という生き物全般を象徴するような高くか細く激しい声だった。
しかし奇妙にも、その音を五月蝿いとは思えども煩わしいとは思えないのは
すべからく彼の自業自得なのだ。まったく憂鬱なことに。

「なんで黙ってみてるのよ」

すん、と鼻をすすった少女が嗚咽まじりの声に恨み節を効かせて云った。器用なことだ。

「黙ってろ、と云ったのはそっちだろ?」

ろ、の発音が終わるか終わらないかというところでクッションが飛んで来た。
少女の手元にあったのがクッションで良かった、これが彼の机の上にあった文鎮やインク瓶だったとしたら
想像するだにおそろしい。
彼の呼吸を一瞬塞いだ羽根のつまった袋を除けると、青い髪の少女に涙の溜まった
きらきらした眼で睨まれた。
ばか、と柔らかそうな―これは彼の想像だ、馬鹿らしいことに――唇が動き、
ばかばかばかシェイドのばか、とひどく不本意な罵倒が続く。
読経並みに切れることのない罵倒とともに、少女が彼との距離を詰めた。
ドア付近に置いておけばいいはずだった彼の視線は少しずつ下がり、
最後には自分の眼前でぴたりと止まった青い頭を見下ろす羽目になる。
と思ったら、握りこぶしで胸を叩かれた。たいして痛くもなかったが。

「女の子が失恋して泣いてたら、王子様は何も云わずに抱きしめて慰めてくれるものでしょ!?」

きっと見上げられた瞳は涙で揺らいだ翠色、べたべたになった頬は真っ赤だ。
歪んだ桜色の唇に一瞬不埒な考えを抱き、すぐに改めた。今度は間違いなく文鎮が飛んで来る。

お前な、普段は人のことを王子様らしくないだの優しくないだのとぎゃんぎゃん煩いくせに。

「……悪かった」

幼い肩を引き寄せて、震える背を抱いてやる。
ずいぶん前に抱えたときよりもなだらかな輪郭を描いているような気がしたが、
それには気付かない振りをした。
最後に聞いた、ばか、という言葉は程好く甘く、その甘さと彼の背中に回された小さな手のひらの
たどたどしさ、そして今の状況も含めてすべてのことを疎むこともできやしないのだ、彼は。



罵倒は嗚咽に変わった、彼は小さな小さな声で自分自身を呪った。


ブログに上げた「正しい恋愛のススメ」(一条ゆかり)パロ。        







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送